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【職人が金継ぎを始めたきっかけ (9)】うつわ継ぎ山鳥 清水 真由美さん

はじめに

国内・海外で年々注目が加速している金継ぎ。
金継ぎとは、割れたり、欠けたり、ヒビが入った器を、漆(うるし)と呼ばれる漆の木の樹液を加工した塗料を用いて修復し、最後に金などのお粉でかわいらしく仕上げる日本の伝統技法です。モノがまだそれほど多くはなかった時代には、壊れたモノを修復してもう一度使うことは当たり前でした。大量生産・大量消費の今も受け継がれるべき、日本の素晴らしい文化です。

この金継ぎを職業にされている日本中の職人さん(「金継ぎスト」と呼んでいます)にインタビューをしました。金継ぎを始めたきっかけや、その想いを伺う中、それぞれの金継ぎストの人生に触れることができ、金継ぎにもっと興味を持つことができました!

ミッション

金継ぎを、金継ぎストからの目線で語っていただき、世の中に広く知ってもらう! 

今回の金継ぎストうつわ継ぎ山鳥 清水真由美さん

神奈川県横浜市で、本漆を使った金継ぎを行っている清水真由美さんが、快くインタビューをお引き受けくださいました。清水さんのお話から学んだことを、私見を織り交ぜながらまとめさせていただきました。

うつわ継ぎ山鳥 ホームページ

人物紹介(うつわ継ぎ山鳥 ホームページより)

千葉県出身 横浜市在住 清水真由美さん

子育て期間中に食事回りの環境の大切さを実感し、愛用の器が割れたときは通っていた骨董店に金継ぎを依頼していたが、夫(主人)の転勤で依頼が難しくなったこと、また以前から自分で直すことへの思いもあり、金継ぎの勉強を始める。
2012年より仕事として請けるようになり、現在に至る。
修理依頼は個人ほか古美術商、民藝店、都内和食器店など年間100点ほど。

金継ぎストインタビュー

金継ぎとの出会い

偶然にも私の実家がある大阪府茨木市に昔お住まいだった清水さん。その頃から、家の中の食事やモノは特別だとお感じになられていたそうです。生活の流れの中で、日々残す・捨てるの選択がありますが、清水さんは器が好きなこともあって、手が出しづらくても質が良い器を購入され、割れても捨てずに金継ぎ修理を依頼して長く使っていらっしゃるそうです。金継ぎがどういったものか、また金額もそれなりにすることを、ずいぶん前からご存知だったそうです。年子2人の育児中、たまたま近くにあった小道具屋さんで壊れた器を直していただき、当時の清水さんとしてはとてもうれしかったそうです。しかし、その後ご主人の転勤により茨木を離れ、気軽に修理を依頼できる場所が見つからなくなってしまったそうです。それ以来、ご自身でもいつか金継ぎをやってみたいと思っていらっしゃいました。

そして清水さんは関東に来られてから、本漆を使って忙しい人でも習える山中俊彦先生の金継ぎ教室や、他にもワークショップなどで錆漆を使った伝統的な金継ぎ技法を習いながら、修理の練習をされたそうです。山中俊彦先生は「金継ぎ一年生」という本を監修されていますが、木象嵌*(もくぞうがん)という、正倉院御物にも見られる手法を駆使して工芸品を手がける作家さんです。

*木象嵌(もくぞうがん):ベースとなる木を図案となる形に切り抜き、そこに違う木をはめ込む作業を繰り返すことで一枚の絵を作る、木を使った木工芸です。

清水さんご自身が本格的に金継ぎ修理をされるきっかけとなったのは、2011年3月11日の東日本大震災でした。陶芸家の前野直史さんの作品が好きで、大阪府茨木市のギャラリーに何度か足を運ばれたそうですが、関東に転勤された後、東京のグループ展時に久しぶりに前野さんと再会されたそうです。そこで、古(いにしえ)の手法で作品を手掛けている前野さんから、是非伝統的な手法でいくつかの作品の欠けや割れを直してほしいとご依頼されたそうです。

子育てと金継ぎの両立

お二人のお子様をかかえ、育児の忙しさから、社会に出たいけれどもできない葛藤があったそうです。そんな清水さんに、「金継ぎと子育ては両立できますか?」とご質問したところ、はっきりと「可能です」とお答えいただきました。清水さんは基本的にはご自宅で、家事の合間の時間を見つけて年間100点もの金継ぎのお直しをされています。そして現在はJIKE STUDIO*さんで春夏、秋冬の年2期、金継ぎワークショップ*を開催していらっしゃいます。

* JIKE Studio(寺家スタジオ)http://tsuki-zo.jp/jike-studio/

*金継ぎ教室(うつわ継ぎ山鳥ホームページより)

情報発信について

清水さんのホームページはご自身で手掛けられたそうで、このホームページを見てご依頼される方が多いそうです。インスタグラムは、始められた当初はお子様のお弁当など個人的なお写真を投稿されていらっしゃったそうですが、徐々に金継ぎ作品を投稿されるようになり、現在では数々の素敵な骨董品の金継ぎ作品で私たちの目を楽しませてくれています。

金継ぎについて

壊れた器をお持ちの方に、「この器は直す価値があるか?」とご質問を受けることがあるそうです。人それぞれの価値観ですが、金継ぎにかかる金額もその判断基準になるかもしれません。また食器に化学的な材料を使用するのを避けたい方もいれば、金額を抑えて簡単に直してほしいお客様もいらっしゃいます。金継ぎの手法を選ぶ基準は人それぞれです。最終的にはご依頼されるお客様がお選びになりますが、お直しする側の清水さんは、一般の方が知らないことを事前によくご説明をされているそうです。

現在、いろいろな情報がオープンになってきて、金継ぎが時間と手間暇がかかる作業であることをより多くの方が知るようになってきました。そして、丁寧に、大切なモノを直して暮らしていきたいという若い人からのご依頼も増えているようです。

金継ぎの難しさ

これまでに清水さんが出会った金継ぎが難しい器としては、外側に漆が塗られていて研げない器や(陶胎の技法を取り入れた器だったそうです)、10個以上に割れ、破片がない部分もあり、欠けを埋める作業が大変なモノなどがあるそうです。このような特別な器や破損状態の場合、お直しに1年以上かかる可能性があると持ち主にお伝えしても、是非直していただきたいとご要望いただいたりもするそうです。人々にとって、時間がかかっても大切にしたい、かけがえのないものがあるのですね。また古くから伝わる1点モノのお直しは、代えもないですし、より一層の責任感と集中力を要するそうです。

ていねいな暮らしと金継ぎ

全般的に手工芸の値段が価格を抑えて買い求めやすくしている一方、古くからの技術や貴重な素材を守っているモノの価値と重要性はより一層高まってきているように思います。昔からの職人さんが減り、材料も手に入りにくくなり、職人さんによる手工芸がだんだんと高価なものになってきた結果、買いやすい中間の層の選択肢が少なくなってきているようにも感じます。ていねいな暮らしに憧れる一方、気軽に目の前にあるものを安く買える世の中であること…その真ん中のニーズを満たすものは、これまでなかったのではないでしょうか。きちんとした暮らしをしたくてもできない…例えば清水さんのように、ご家庭をしっかり守り支えなければならないけれども、社会にも出たい…完璧を目指したいけれど、たまには一息つきたいとき。手間・値段を含め、中間層の情報が今求められているのかもしれません。こんな中、堀 道弘先生著の「おうちでできるおおらか金継ぎ」の本は、金継ぎに、最小限どこまで手をかければよいかを示した最初の本で、もう少しゆるくやっていいんだ、と読者にどこか安心感を与えてくれました。漆芸に従事される方は、まじめで、最初から最後まで完璧に直さなければいけない、という印象もありますが、その漆のプロから新しい概念を提唱していただき、金継ぎをこれから始めたい方には一歩踏み出しやすい内容なのではないでしょうか。

おうちでできるおおらか金継ぎ https://amzn.to/2tSN3B8
(出版社: 実業之日本社 Amazon 売れ筋ランキング1位 ─ 趣味・実用の陶芸)

金継ぎに対するポリシー

目に入るものは美しく、と表現された清水さん。金継ぎには、自然素材の穏やかな美しさがあるそうです。清水さんの金継ぎには、母のようなやさしさと同時に、女性の強さ・繊細さが込められているように思います。

金継ぎマッチングプラットフォームについて

取材者Yukiは、金継ぎや伝統工芸を一般の人にもっと普及させ、職人さんにより活躍してもらいたいと思い、インターネット上にマッチングプラットフォームを構築したいと考えており、ご意見をお願いしました。

昔から漆に携わっている職人をリスペクトしつつ、古くからの漆を現代のインターネットと親和性を高めるのは、容易なことではないと思います。しかし、両方から歩み寄ることで、新しい価値が生まれるかもしれません。

清水真由美さんにご推薦いただいた本

昨今、金継ぎに興味を持ち、金継ぎ教室に通われている方は多いと思います。そんな私達に、いくつか金継ぎの推薦書をご紹介いただきました。

(1) 初心者向け

はじめての金継ぎ 世界文化社
チャートもわかりやすく、リカバリーや注意点の説明がより詳しいそうです。また、清水さんのご説明と似ている箇所も多いそうです。

(2) 修理全般

茶道誌 淡交2019年増刊号 
茶道具のつくろい 金継ぎから表装直しまで 淡交社

修理の考え方としてお勧めしたい一冊で、昔から金継ぎを行う文化のある茶道具の直しについての説明が詳しいそうです。また例として取り上げているお道具も名品ばかりです。

(3) 技巧

塗りの技法書 誠文堂新光社
清水さんが技巧の参考にされている本です。各種塗り方、金継ぎ塗り物の修理方法も記載されていて、身近な漆工芸品を自分でつくる時の参考になります。

最後に

お話をしていく中で、清水さんには一本筋の通った判断基準があり、何かを選び決めていく際にはいつもその基準に照らし合わせることで、ぶれない生き方をされているのが伝わってきました。様々なライフスタイルがある世の中で、金継ぎを通して一つの素敵な選択肢を示していただき、勇気をいただきました。これからの清水さんの益々のご活躍を応援しております!

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