欠けた陶器などの器を漆(うるし)でつなぎ、そのつなぎ目に金や銀を使って装飾していくという、金継ぎ。耐水性もある漆を使った金継ぎは壊れたものを直すだけでなく、直しながらおしゃれに仕上げていくという何とも趣のある技法です。
伝統的な技法でもあるため今では超がつくほど有名なものとなっていますが、いざやってみようとするとなかなか工程も多く、難易度が高いもののように感じてしまいますよね。しかし実は知識を付けていくととても面白く、初心者の方や、diy好きの方などが楽しむことができる世界なのです。
ということで今回は、「金継ぎの世界について勉強できる本」として、金継ぎの専門家の方々が出している本をいくつか紹介していきます。金継ぎの歴史、やり方、文化など色々なことについての本が出されているので、「自分が金継ぎの何について知りたいのか」というところと照らし合わせながら、見てみてください。
①“金継ぎの本”といえばこれ!「漆の技法」
柴田克哉先生という方が阿部出版から出している、「漆の技法」という一冊。通販サイトでのレビューも高く、「金継ぎに関連する本を探している」という方のみならず、漆を使ったさまざまな技法を知りたい!という方であれば一度は手に取ってほしい作品です。
実は応用編と2冊出ている
「漆の技法」というタイトルで、「応用篇」というものも出ています。どちらも「工芸入門講座」という一文が添えられているのですが、やはり初心者向けとして探しているのであれば、「応用篇」ではない方をおすすめします。応用篇ではない通常の「漆の技能」のほうは全94ページ、そして応用篇は全107ページとのことでした。
この本に関する通販での評価を見てみると、「わかりやすくて最低限のことを知ることができる」といったものや、「写真が多くてやり方がわかりやすい」といったことが記載されていました。どちらに関しても100ページ前後となっていますのでぶ厚すぎませんし、写真を見ることで金継ぎや漆の世界を楽しむこともできるでしょう。
ちなみに最近の金継ぎは本物の漆を使用したものと合成接着剤を使用したものと2種類ありますが、タイトルの通りこの本では本物の漆を使った金継ぎを紹介しています。
監修者である柴田克哉先生について
この「漆の技法」を監修している柴田克哉先生ですが、様々な展覧会やワークショップを開催されています。高校、大学、工芸教室など様々な場所で講師としても活躍しており、初めて金継ぎの世界に飛び込む方こそ注目すべき、トップクラスの先生です。
実は、私ことYukiの金継ぎの師匠であり、ベストセラーの金継ぎキット「TSUGUKIT」を監修してくださっている先生でもあります \(^O^)/
②金継ぎの楽しさが伝わる!「おうちでできる おおらか金継ぎ」
次に説明するのは、堀道広先生が監修している「おうちでできる おおらか金継ぎ」という作品。ページ数は96ページと、こちらも手に取りやすいものとなっています。
金継ぎを手軽に説明している
この一冊では、金継ぎの基礎から仕上げるところまで、情報を伝えています。なかなか初心者の方からすると難しいといった印象が持たれがちな金継ぎですが、「おうちでチャレンジができるように手軽に解説」というところもこの本の魅力です。
なかなか初心者の方からすると難しいといった印象が持たれがちな金継ぎですが、「おうちでチャレンジができるように手軽に解説」というところもこの本の魅力です。
そしてこちらも手軽にとはいいつつしっかりと本漆を使い、手軽さと本格さの両方を取り入れた内容となっています。
著者である堀道広先生について
実は堀先生、漆作家ではありながら漫画家という一面も持つという方で、多才である印象を持つ先生です。この本は先ほども言ったように「伝統的な方法を手軽にチャレンジ出来るように」というような思いが込められていますが、こうした意識を持って本を出すというのは本当に金継ぎに対して愛がなければできないことでしょう。
そんな堀先生が出した本ですから、ぜひ多くの方に手に取ってほしいと思っています。
堀先生手書きのイラストも入っていて、ページをめくるごとに可愛くてトキメいてしまいます(○´ω`○) ちなみにYukiも何度かお話ししたことがあり、この金継ぎ女子のサイト内にもちらほら、堀先生のイラストを使わせていただいています!(探してみてください^^)
Yukiが堀先生にインタビューした時の詳しい記事も、ご興味があればご覧ください!
③超基本から上達を目指す!「繕うワザを磨く 金継ぎ 上達レッスン」
基本から応用を一冊にまとめてあるこの本は、持永かおり先生による一冊です。金継ぎに並々ならぬ愛情を持っている持永先生が監修した本となっています。
道具から作業の説明まで丁寧に説明されている
実際に金継ぎで使用する道具や材料といった部分の解説から、欠けやヒビ、割れを繕うところまで解説されています。初心者の方が急にやり方だけを教わったとしても道具の名前が分からなければよく理解できないはずなので、道具の説明からしっかりと目次に組まれているのはとても嬉しい構成です。初心者用というよりは、金継ぎについて一通り知識を持っている中級者に最適かもしれません。
作業の手順もしっかりと説明されているので、「この一冊を買えば何とかなる」ともいえる、特別な一冊ですね。
こちらもしっかりと本漆を使用した本ですので、本格的な世界観を堪能できます。ご自身のポリシーとして、できるだけ日本産の漆を取り入れて金継ぎされている方です。
金継ぎにただならぬ愛情を持つ持永かおり先生
多摩美術大学でガラス工芸と陶芸を学んでいた、この本の著者である持永かおり先生。それまではモノづくりを中心としていましたが、2011年の震災を機に修復する方に転身をしたという経歴もお持ちです。今ではEテレの教育テレビに出演するなど、色々な世代に関わっている方でもあります。
Yukiも以前インタビューさせていただき、この金継ぎ女子のウェブサイトの「金継ぎストインタビュー」のカテゴリーに記事を書かせていただいています(๑˃̵ᴗ˂̵)و. こちらもご興味があればぜひお読みください!
④一部道具もついてくる!「大人のおしゃれ手帖特別編集 簡単!おうちで金継ぎ」
こちらの「大人のおしゃれ手帖特別編集 簡単!おうちで金継ぎ」という一冊ですが、こちらは金継ぎをするための道具も入っているというメリットのある一冊です。
金継ぎの世界の導入ということであればおすすめできるかもしれません。
金継ぎの導入にはいいかも
2020年に発売された割と新着な一冊。先ほど道具も入っていると説明しましたが、レビューを見てみると「接着剤がムック本とは別に必要と説明があった」と記載がありましたので、「この一冊を購入すれば完結する」とは言えないでしょう。また価格も4000円強となっているので、雑誌や本を買うと考えると少しお高め。とはいえ教室に通うと考えれば安く感じますね。
値段的なところでお気づきの方もいるかもしれませんが、この本で使っているものは本漆ではなく接着剤を使用した簡易金継ぎとなっています。ちなみにこの本は宝島社からの商品ですので、有名な先生が監修しているということは無いようです。
そのため著者に関しての説明は省かさせていただきます。
⑤金継ぎの魅力に迫る一冊、「継 金継ぎの美と心 The Spirituality of Kintsugi」
(↑Yukiが漆芸舎平安堂に行った時の写真)
ここまで紹介した本はどちらかというと手順や道具についてを分かりやすく説明するといった本でした。しかしここで少し方向性を変えて、「金継ぎ」という文化そのものについて書かれた本を紹介します。
金継ぎの文化についてをメインに書かれている
最近では日本国内だけでなく海外の方々からも注目を浴びている金継ぎですが、そういった部分を見逃さずに、世界中の方々に向けて金継ぎの魅力を語っている一冊で、2021年11月に発売された、この記事の中では最も新しい本です。
清川廣樹先生が著者となっていますが、この方は勢力的に国内外に飛び出して金継ぎについての活動をしていらっしゃる先生です。そんな先生が金継ぎについての歴史をはじめ、文化や美的感覚といったところを紹介しています。
「なぜ海外で人気を博したのか」という疑問点にもエピソードを交えて説明しているようなので、金継ぎのやり方などよりも金継ぎという文化そのものについて興味がある方におすすめです。もちろん本格的な本漆を使っているので、伝統的な金継ぎを楽しめるでしょう。
より詳しい書評を、こちらのブログに書きましたので、ぜひお読みください:https://kintsugi-girl.com/8967/
著者である清川廣樹先生について
神社や寺院などの修復も手掛けたご経験のある、まさにベテランの清川先生。講演会などを通じて金継ぎを広めるといった活動もされているようです。京都の大徳寺の目の前に構える、風流な佇まいの「漆芸舎 平安堂」という工房も営んでおり、金継ぎ教室も開いているとのこと。
清川先生に直接ではありませんが、以前Yukiも漆芸舎 平安堂でお話を伺いインタビューさせていただきました^^
興味があれば訪れてみても良いでしょう。
⑥200点を超える図版が見られる「金繕い工房―漆で蘇らせるつくろいの技目の眼ハンドブック―」
これまた一風変わった一冊となっていて、200を超える図版が掲載されているという点が特徴です。金継ぎを目で楽しむことができる一冊でしょう。
ただ直すだけではなく“繕う”
あえてこの本では「金継ぎ」ではなく「金繕い」というワードが使われています。それだけ、金継ぎというものに対して「ただ修復するだけの作業」ではなく「修復のなかで美しさを増すもの」という価値観を著者が持っているということでもあるでしょう。金だけでなく銀などといった色々な種類の粉を使用することで、より一層本漆との様々な美しさを表現することもできます。
そういった金継ぎの「美」の部分もしっかりと堪能できる一冊ではないでしょうか。
お皿や茶碗など、日常のなかに溶け込む親近感のある「美」を見せてくれます。
本漆ではなく、簡易金継ぎ(ふぐ印の新うるし)を用いて修復されていらっしゃるようです。
著者である原一菜先生について
東京都に生まれた原先生。草木染染色工芸家の山崎青樹先生の師事として活動されています。太田流礼法水引折方教授も務めているとのことなので、多方面で活躍されている方と言えるでしょう。
⑦Q&Aも記載「ゼロからの金継ぎ入門―器を蘇らせる、漆の繕い―」
まさに初心者向けといわんばかりの一冊です。
「昔ちょっと金継ぎをやってみたけど、全く意味が分からなかった」といったように門前払いを食らったという方も、この一冊を試していただければと思います。
本物の漆を使った金継ぎを解説している
最近ではエポキシやボンドといった漆もどきのような接着剤を使って解説をしているという本も出ていますが、この本は本物の漆を使用して解説をしています。
金継ぎをするとはいえ陶器にも色々な種類がありますよね。実は陶器の種類によってそれに合った金継ぎの方法というのがあるのですが、色々な陶器の修復に合うように金継ぎの方法を紹介しているので、安心して作業に取り掛かれるでしょう。この本にはQ&Aのコーナーもあるので、ちょっとした疑問もそこで解消できるかと思います。
著者である伊良原萬美先生について
伊良原先生は東京藝術大学大学院美術研究科漆芸を専攻していて、卒業作品のなかで教授会が推薦した優秀作品に対して贈られる、サロン・ド・プランタン賞を受賞している経歴をお持ちです。
またその後も2005年の国際漆展で銀賞を獲得しておりますので、漆に関しての実績を多く持ってらっしゃる方ですね。
⑧手軽に始められる「金継ぎ一年生 本漆で、やきもの、ガラス、漆器まで直します」
破損した部分に漆を塗り、そこに金粉などを振って装飾をしていくという金継ぎですが、道具や材料などというのは決して安いものではありません。経済的な手軽さも含め、始めやすさというところを重視した一冊になっています。
使う道具も手軽にそろえる
金継ぎは道具があれば自宅でも体験できますが、実際に体験するには筆をはじめとした道具や金粉、漆等の材料も必要です。これらの必要な道具を全てそろえるとなればかなり材料費がかさばりますが、この本ではホームセンターや100円ショップなどでそろえることができる道具を利用しています。
金額の高い高級な材料を使うと「失敗したらどうしよう」といった感覚にもなってしまいますが、使う道具が手ごろなものだと気軽に金継ぎを楽しむことができますよね。無料、とまではいかなくても、コストを抑えて楽しめるでしょう。
こちらの本の場合には簡易的な金継ぎに加えて本漆も合わせて使うというハイブリッド形式を取り入れています。「食品に対して使うものだから、簡易金継ぎはイヤだ」という方も、これだと少しは安心できるのではないでしょうか。しかし、表面の本漆は、使用するにつれ擦れて剥がれてくることがあるので、内側の合成接着剤に口が全く触れないかというと、その保証はありませんので、ご自身の判断で選ばれることをおすすめします。
著者である山中俊彦先生について
奈良県生まれでグラフィックデザインを学んだ経験を持つ山中先生。元々は木工のお仕事をされていましたが、近年では本漆を使う金継ぎを多くの人たちに伝えるという活動もしていらっしゃいます。
自然体な講座が魅力的で若者からの人気も集めているようです。
⑨シンプルな教材「はじめての金継ぎ」
こちらもクセのないシンプルな一冊となっています。
とにかく「金継ぎを実際にやってみたい」と思っている方におすすめです。
細かくカテゴリー分けして説明
この本は「割れ金継ぎ」や「ヒビ金継ぎ」など色々とカテゴリを分けていて、時と場合に合わせて臨機応変に対応できるようになっています。大切な物を修復するからこそ、しっかりとそのものに合った修復方法で直したいわけです。このようにカテゴリ分けされていれば「自分はどの方法が適正なのか」というところと照らし合わせながら修復作業ができるわけです。
しっかりと本漆を使って説明しているという点でも、安心して作業ができます。
著者である坂田太郎先生、中島靖高先生について
この本に関しては関わっている著者の先生がお二人いらっしゃるので、お二人について紹介していきます。
まずは坂田先生について。
東京藝術大学大学院美術研究家工芸専攻漆芸修了という実績をお持ちで、1998年の第45回日本伝統工芸展入選を皮切りに、グラフィックデザイン誌である「アイデア」での作品掲載など、メディアにも多く出演されている先生です。
また同じ東京藝術大学大学院美術研究家工芸専攻を修了している実績お持ちの中島靖高先生も、この本の著者であります。坂田先生とは3歳年下という間柄で、大学の後輩ということになりますね。
金継ぎの講師という一面を持ちながら、2004年の第7回岡本太郎記念現代芸術大賞に入選し、2017年の日本現代工芸美術展では現代工芸新人省を獲得しているなど、実績も多数の先生です。
⑩アートとして金継ぎを楽しむ「金継ぎ手帖 はじめてのつくろい」
「手軽に金継ぎを」というテーマも感じられるこの一冊。
カジュアルに金継ぎを楽しむことを重視した本となっています。
金継ぎの世界を堪能できる一冊
レビューを見てみると、一部「エッセイのようだ」というコメントもありました。目次を見てみてもそのような部分はあったので、「金継ぎの世界を文章で楽しむ」といったことも言えるかもしれません。また本に対する説明文には何度も「カジュアル」というワードが出てきていたので、手軽に金継ぎというものを手に取ってもらいたいという意向もあるのでしょう。
あえて簡易的な金継ぎを取り扱っているという点も、より「カジュアル」な部分を演出するためのものだと考えられます。金継ぎの技法だけでなく歴史や作例といったもの、そして文章でも楽しめるため、「ざっと金継ぎのことを知りたい」という場合にもおすすめできるかもしれません。
著者であるナカムラクニオ先生について
「6次元」というブックカフェに店主という顔も持つナカムラクニオ先生は、金継ぎに関してのワークショップを開催して世に金継ぎの魅力を発信してきた方であります。またフリーランスとして美術や旅番組といったもののディレクターとしても活動。これまでには40か国以上の国々を訪れたとのこと。
経験豊富なナカムラクニオ先生が著者を務めたこの一冊ですから、先生ならではの世界観も楽しめそうです。
まとめ 同じ金継ぎの本でもそれぞれ色々な特徴が
最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。
以上の通り、ここまで「金継ぎに関する本」として10冊を一覧にして紹介してきましたが、「金継ぎのやり方を説明する本」や「道具に関して説明する本」の他、「エッセイのように金継ぎの世界を堪能できる本」など、色々な視点から金継ぎについてを解説する本がありました。
最後に参考までに、多くの方が関心を寄せる金継ぎの種類について、この記事で紹介した本が伝統的な本漆金継ぎ(以下、本漆)か、簡易金継ぎ(以下、簡易)かで大別させていただきました。(ランキングではありません)
本のタイトル | 著者 | 本漆 or 簡易 | |
1 | 漆の技法 | 柴田 克哉 | 本漆 |
2 | おうちでできる おおらか金継ぎ | 堀 通広 | 本漆 |
3 | 超基本から上達を目指す!「繕うワザを磨く 金継ぎ 上達レッスン」 | 持永 かおり | 本漆 |
4 | 大人のおしゃれ手帖特別編集 簡単!おうちで金継ぎ | なし | 簡易 |
5 | 継 金継ぎの美と心 The Spirituality of Kintsugi | 清川 廣樹 | 本漆 |
6 | 金繕い工房―漆で蘇らせるつくろいの技目の眼ハンドブック― | 原 一菜 | 簡易 |
7 | ゼロからの金継ぎ入門―器を蘇らせる、漆の繕い― | 伊良原 萬美 | 本漆 |
8 | 金継ぎ一年生 本漆で、やきもの、ガラス、漆器まで直します | 山中 俊彦 | ハイブリッド |
9 | はじめての金継ぎ | 坂田 太郎 中島 靖高 | 本漆 |
10 | 金継ぎ手帖 はじめてのつくろい | ナカムラクニオ | 簡易 |
つぐつぐの金継ぎ教室で学ばれている生徒さんから、「もっと理解を深めたいのでどの本をおすすめしますか?」と聞かれることがあります。
金継ぎストYukiの独断と偏見ですが…
まだ全く本漆金継ぎをしたことがない!という方には、もっとも簡単でわかりやすい「おうちでできる おおらか金継ぎ」、金継ぎ教室に通っていたり少し知識がある方には「はじめての金継ぎ」、丸粉を使った技法や中級レベルの方は「超基本から上達を目指す!「繕うワザを磨く 金継ぎ 上達レッスン」」、金継ぎだけでなく漆のいろいろな技法を学びたい方には「漆の技法」をおすすめします!
今回紹介した本の中には「○○books」などといった電子書籍で販売されているものもありますので、気になった方はぜひ検索してみてください。
紹介した本の中には道具が付属されていない本もありますが、金継ぎキットなどというように必要な道具がセットになっている商品もありますので、気になった方はそちらもチェックしてみてください。
思い出の品を修復する金継ぎは家族で楽しむこともできますから、楽しい時間を家族や仲間とシェアすることもできるでしょう。
壊れた器や食器から新たな思い出が出来るといいですね。
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