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【職人が金継ぎを始めたきっかけ (12)】 wad 小林 剛人さん

はじめに

国内・海外で年々注目が加速している金継ぎ。
金継ぎとは、割れたり、欠けたり、ヒビが入った器を、漆(うるし)と呼ばれる漆の木の樹液を加工した塗料を用いて修復し、最後に金などのお粉でかわいらしく仕上げる日本の伝統技法です。モノがまだそれほど多くはなかった時代には、壊れたモノを修復してもう一度使うことは当たり前でした。大量生産・大量消費の今も受け継がれるべき、日本の素晴らしい文化です。

この金継ぎを職業にされている日本中の職人さん(「金継ぎスト」と呼んでいます)にインタビューをしました。金継ぎを始めたきっかけや、その想いを伺う中、それぞれの金継ぎストの人生に触れることができ、金継ぎにもっと興味を持つことができました!

ミッション

金継ぎを、金継ぎストからの目線で語っていただき、世の中に広く知ってもらう! 

今回の金継ぎスト:wad 小林 剛人さん

大阪で、金継ぎ教室・修理・Café・個展・催事など幅広く活動されている小林 剛人さんが、快くインタビューをお引き受けくださいました。小林さんのお話から学んだことを、私見を織り交ぜながらまとめさせていただきました。

wad (omotenashi cafe) の外看板

和道=wad 「日本の良きモノ」をコンセプトに一点一点にこだわり、ひとつひとつに込められた”心”を伝え続け、 “違い”を楽しむ生活を提案します。wadでは 茶道の精神をアレンジし、器と素材を楽しむカフェスペース 現代陶芸作家のギャラリースペース 割れ、欠けた器を修復する金継ぎ(本金継ぎ、簡易金継ぎ)を行なっています。

wad (omotenashi cafe)  ホームページ
〒542-0081 大阪府大阪市中央区南船場4-9-3 東新ビル 2F
tel /fax 06-4708-3616

金継ぎストインタビュー

金継ぎに出会ったきっかけ

小林さんは24歳の頃美容師をされていましたが、27歳で独立されました。お父様は焼き物が好きで、小林さんが小さいころから家族旅行で備前や信楽によく連れて行ってもらい、六古窯(ろっこよう)の焼き締めなど見ただけで、どこの焼き物か判断できるほど目が肥えて知識があったそうです。そして小林さんも自然に古いものが好きになり焼き物を集めるようになっていたそうです。

小澤 典代
小林さんとwadが載っています

小林さんが25歳のとき、女将(おかみ)が在籍していない高級料理屋で、花入れを季節によって変えず同じものを年中置いているのを見て、焼き物が好きな方は審美眼を持っている方が多いので、リースで入れ替えることを提案して回られたそうです。そうしてお仕事をいただけるようになった時、京都で金継ぎを依頼している料理屋さんが、金継ぎが高すぎてコストが合わないとおっしゃっているのを聞き、簡易金継ぎのニーズに気付かれたそうです。超高級なお店に勤めている料理人さんは、修行時に金継ぎ・お花・茶道を習っていて、教養としてできる方が多いそうで、小林さんはそういった方に簡易金継ぎのベースを教わったそうです。そして、一つお直した器を持っていったところ大変気にいっていただけ、たくさん割れた器をお預かりし、花器のリースと並行して器の修理の数をこなされたそうです。次第に他の料理屋さんを紹介されるようになり、金継ぎ師としての本格的な仕事が始まりました。小林さんの金継ぎへの世界の入り口は漆から始まったわけではありませんが、焼き物の知識は誰よりもある強みを生かして、現在も金継ぎのみならず、幅広い形で器に携わっていらっしゃいます。

またwadをオープンする前に、ヨーロッパの修復師(家具・楽器・傘など)をまわり、なぜこういった日本にはない修復の仕事が海外では続いているのかを調べられたそうです。そしてモノに対し、ヨーロッパと日本との文化の違いを痛感されたそうです。

金継ぎの位置付け

小林さんとお話ししていてまず初めに衝撃を受けたのは、「金継ぎは日用品の食器を直すものではない」との一言。昔金継ぎは、一国の価値に値するものだったそうです。室町に始まり桃山時代に最も流行した金継ぎ。戦国時代に豊臣秀吉が武将に土地をご褒美として与えていたものの、日本の土地は狭く、与えられるものに限界がきたため、お茶道具や唐物を一国の価値に値するものとして、ご褒美として与えるようになりました。そのような大変貴重なものが割れたときに、蒔絵の技法を取り入れた金継ぎによる修復が始まりました。一国の価値に値するものを直すのが金継ぎなので、日常の食器を直すものではない、という考え方もあるわけです。高価な金継ぎを日常の食器に施すには採算が合わないため、小林さんは日常品のお直しには簡易継ぎを推奨されています。安価だけれど思い入れがあるものが壊れてどうしても直したいときは、簡易金継ぎで安く直し、代々受け継がれるような高価な美術品は漆を使った本金継ぎで直すのが良いのではないかと、小林さんは分けて考えていらっしゃるそうです。

金継ぎはアートではない?!

さらにもう一つ新しい概念をご教示いただきました。ヨーロッパなどの海外では金継ぎはアートとして注目されていますが、小林さんにとって、金継ぎはアートではないとのこと。その極意は、金継ぎ職人はそれほど表に出てこず、誰が直したかわからないのが良いところ、でもあるだからだそうです。多くの金継ぎ職人さんは骨董品屋さんの裏にいらっしゃり、モノの所有者の名前はどこかに入っても、直した職人さんの名前は入らないことが多いそうです。

金継ぎ修理

金継ぎを始めて15年になる小林さんは、本金継ぎ・簡易金継ぎ合わせて月100個単位でお直しするほど依頼がありましたが、現在受付をストップすることになりました。これまではご依頼を全て受けるポリシーで、下請けの方にもお手伝いいただいて行っていましたが、納期に追われてしまうことや、全てご自身で責任もってやりたい気持ちなどから、2~3年かかっても小林さんに直してほしいと仰る方のみに絞る英断をされたそうです。

金継ぎ教室

今後は、割れた器を抱える方が自分でお直しできるのを増やすために、金継ぎ教室に注力しよう考えていらっしゃるそうです。また小林さんは現在、韓国でも月一回本金継ぎと簡易金継ぎのワークショップを実施されています。韓国や大阪では金継ぎ教室が増えていますが、歴史や文脈、そして自分のアイデンティティを、ワークショップの初めにお話されてしっかりと伝えているそうです。また全6回の本金継ぎの教室を卒業した人が月1回通える教室も開催され、一通り金継ぎを学んだ方が焼き物や「かすがい止め」を学べる教室など、さらにスキルアップできる教室を開催されています。また古物を扱っていらっしゃるため、お客様が直したいものと出会える場所を作っていらっしゃいます。100円均一にあるような安い器を本金継ぎで直そうと思ってもモチベーションがあがらないため、価値の高いモノを大切に直して使えるようにされたいそうです。そんな金継ぎ教室の参加者は昔からずっと多いですが、最近は若い人が増えているそうです。一見、 (私みたいな) 金継ぎに興味がなさそうな女子が少し体験したい、というのが増えているそうです。一方、韓国の教室では、参加者は骨董屋、陶芸家、料理研究家が多いそうです。

海外との考え方の違い

ヨーロッパでは代々受け継いだものを使う文化がありますが、日本は神道により元々使い捨てが中心の文化だそうです。どうせ捨てるのに、そのプロダクトデザインに力を入れ、桜のように散ることが美しいと思う文化。そのため、小林さんは時々、捨てるべきものを何故この世に残すのか、という罪悪感を感じたり、直さなくてよいものまで直してしまっているのか?という葛藤で悩まれることがあるそうです。また作家さんのモノもお取り扱いされているので、金継ぎすることで新しいモノと顧客の出会いを遮断している気持にもなってしまうです。一方、400-500年前のものが金継ぎされて今も残っているのであれば、これから先もそのモノはきっと残るはず、ともお感じになられるそうです。簡易金継ぎの材料は分解されにくいのですが、本金継ぎで用いる自然の材料で接着すれば、100年後に次の人の手に渡っても同じように分解して、もう一度きれいに金継ぎをして後世に残すことができるため、そういったものは是非本金継ぎをしてほしいと願っていらっしゃるそうです。

金継ぎマッチングプラットフォームについて

取材者Yukiは、金継ぎや伝統工芸を一般の人にもっと普及させ、職人さんにより活躍してもらいたいと思い、インターネット上にマッチングプラットフォームを構築したいと考えており、ご意見をお願いしました。

「新しいなと思います。漆の人は金継ぎだけでなく漆の塗りをされていて、副業で金継ぎをされることが多いです。マッチングプラットフォームがあっても全然いいと思います。しかし金継ぎは時間と手間暇がかかるため(家計を支えるほどの)採算は合わないと思います。(取材者Yukiには)この金継ぎを、是非きちんと世界に発信していってほしいです」

小林さん自身、漆を使って何度もテストし失敗もして、数をこなして上手くなられたそうです。漆の扱いは難しく、本金継ぎは一生勉強するものだとお考えだそうです。金継ぎは、時間はかかりますが、自分自身で経験してやっていくのが大切だとご教示いただきました。

ちなみに…金継ぎプラットフォーム『つぐつぐ』を、2020年8月頃スタートさせることになりました!お楽しみに!(by 金継ぎストYuki)

(こんなロゴつくりました)

金継ぎに対するポリシー

「自分の意図を入れず、無でやる。」

金継ぎ急須

こうするとかっこいいのではないか、と主張の入った金継ぎをすると、自分の意図が器より勝ってしまうそうです。ラインの太さ一つをとっても、器に合ったバランスをとった直しを心がけていらっしゃるそうです。

金継ぎの今後

「日本の文化・伝統の継承なので消えることはないと思います。東日本大震災の後、私たちは一旦全てを失って、何が大切かを見直し、人間関係や大切なモノを繋ごうと考えたことから、金継ぎがブームになったのだと思います。モノとの関わり方は人間関係と似ているように思います。今後そういったことがきちんと伝わっていければいいなと思います。」

力強いお言葉をいただきました。

今後の小林さんのご活動

これからも作家さんのモノを提案し、器を知ってもらうために金継ぎを続けていきたいそうです。また金継ぎ教室により注力することでで、自分で自分のモノをなおせるライフスタイルの人が増えて、本質を分かった上での金継ぎが広まることを願われていました。夢をもって27歳で独立され、目標をもってやってきた小林さんは、これまで夢を全てかなえてきたそうです。しかし、10年が経った今、これまで犠牲にしてきたことにも気づいたことから、今後ははあえて目標というものををなくして活動されたいそうです。

最後に

(取材者Yukiの)「金継ぎ愛がヤバい」と言われましたが、小林さんも仕事に対し非常に強い考えをお持ちで、インスパイアされました。好きなこと・情熱を注げるものと出会えて幸せであること、そして人生一回しかないので、これからも全力で走り続けたいそうです。これからも断らずに全部やって、気合で走り続けたい。これからの小林さんの益々のご活躍を応援しております!

翌日、Yukiはwad omotenashi cafeにお邪魔し、一人でお茶と最中(もなか)を楽しんできました。

ワドモナカ

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